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東京地方裁判所八王子支部 昭和31年(ワ)117号 判決

主文

被告は原告に対し、原告から金八万五〇三二円の支払を受けると引換に、別紙目録記載(一)の各土地及び(二)の建物につき所有権移転登記手続をなすべし。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、請求及び答弁の趣旨

原告代理人は、「被告は原告に対し、別紙目録記載(一)の各土地及び(ニ)の建物につき所有権移転登記手続をなすべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、事実上の陳述

請求の原因

(一)原告は昭和二九年六月一〇日被告からその所有の別紙目録記載の土地、建物を、地上に存する植木、樹木を含めて買い受けたのであるが、その代金額は、土地については植木、樹木の代金を含むという趣旨で実測により坪当り一〇ドル(邦貨換算三六〇〇円)、建物については附属設備も含めて金二二〇万円とし、一おう土地は三〇〇〇坪あることに見積つて算出した土地、建物代金合計一三〇〇万円についてその支払方法を協定して、(1)右売買と同時に手附金として四〇〇万円を後日代金の内入とする趣旨で支払い、次いで(2)昭和二九年一二月三〇日、(3)昭和三〇年六月三〇日、(4)同年一二月三〇日の三回に各金三〇〇万円宛分割支払うこととし、なお実測坪数と右三〇〇〇坪との過不足による土地代金の差額は最後の右(4)の支払金に加減調整して支払うこととし、代金全額の支払と引換に右土地、建物について所有権移転登記を受けることに約定した。

(二)右約定に基き、原告は被告に対し、右(1)については昭和二九年六月一〇日金一五〇万円を、同月二四日残額二五〇万円を各支払い、(2)については約定の日に支払い、(3)については昭和三〇年七月二五日金二〇〇万円を、同年八月三一日残額一〇〇万円を各支払い、(4)については、昭和三一年二月一八日別紙目録記載の各土地の実測坪数合計三〇六八坪四合八勺の坪当り三六〇〇円の割合による土地総代金から以上支払ずみの計金一〇〇〇万円を差し引いた金九六万一四九六円を弁済のため現実に提供したが受領を拒絶されたので、同月二一日東京法務局八王子支局に供託し、次いで同年三月一四日建物代金として金二二〇万円を弁済のため現実に提供したが受領を拒絶されたので、同年四月六日同様供託した。

(三)右の如く原告は本件売買契約上の代金債務の支払を完了したので、被告に対し売買物件たる別紙目録記載(一)の各土地、(二)の建物につき所有権移転登記を求める。

請求原因に対する答弁及び抗弁

原告主張の(一)の事実は、坪当り三六〇〇円の土地代金の中に地上に存する植木、樹木の代金が含まれているとの点を除いてその他は認める。植木、樹木は被告の移植ないし育成にかかる相当高価なものであり、土地引渡までに異動があるので、昭和三〇年一二月三〇日現在において双方協議評価して定めたその代金額を別途に支払う約束であつたのであり、従つて原告主張の額の土地、建物代金の外右代金の支払の完了と引換に移転登記をする定であつた。原告主張の(二)の事実中(1)ないし(3)の各支払及び(4)の各弁済供託の事実は認めるが(もつとも(2)の支払の時期は原告の主張する如く昭和二九年一二月三〇日ではなくて昭和三〇年一月四日である。なお、実測坪数三〇六八坪四合八勺の坪当り三六〇〇円の割合による代金額から金一〇〇〇万円を差し引いた額は原告主張の如く九六万一四九六円ではなく、金一〇四万六五二八円となる筈である。)、(4)の各弁済提供の事実は否認する。

然るところ

(一)右の如く売買成立の後地上の植木、樹木についての約定に関し当事者間に紛争が生じたため、昭和三〇年六月五日改めて原告代理人石山乃木と被告との間で本件建物の存する邸宅地内及び道路を境に邸宅側の土地部分に存する植木、樹木は無償とするが、その他の土地に存する植木、樹木(環状道路の外側に存するもの)は土地引渡時において協議して時価を評価してそれを代金として支払うことに協定した。然るに原告は右代金の支払をしないので被告は原告に対し、昭和三二年四月五日附当時到着の書面で右植木、樹木の代金一二〇万円(昭和三一年末において時価に評価して一二〇万円に相当した。)を同月一五日までに支払うべき旨催告すると共に、右の支払なきときは本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、原告はこれに応じてその支払をしなかつた。よつて本件売買契約はここに解除されたものというべく、従つて売買の存続を前提とする原告の本訴請求は失当である。

(二)仮りに右契約解除が何らかの理由によりその効力を生じないとしても、少くとも原告は右(一)において被告の主張する約定により本件売買土地の一部に存する植木、樹木につき代金支払義務があるのに、その支払をせずして被告に移転登記を求める本訴請求は失当である。

(三)仮りに、右(一)の約定成立したことなく、また、原告主張の如く本件土地代金坪当り三六〇〇円の中に地上の植木、樹木の代金も含まれているとしても、原告主張の供託は適法な弁済の提供を経ないものであること被告の前記主張の如くであつて債務消滅の効果を生じないものであるから、結局被告は本件代金総額一三一四万六五二八円(坪当り三六〇〇円の割合による三〇六八坪四合八勺の土地代金と建物代金二二〇万円の合計額)から既に支払を受けた金一〇〇〇万円を控除した三二四万六五二八円の支払を受けるまで、本件移転登記を拒否すべく、もし右供託が有効に債務消滅の効果を生じたとしても、供託額は合計金三一六万一四九六円であるから差し引き金八万五〇三二円の未払分あることになるので、少くともこの未払金の支払あるまで本件移転登記を拒否する。

右(一)、(二)の抗弁に対する認否、反対主張

被告が右(一)において主張する如き書面が到達したことは認めるが、被告主張の如き植木、樹木の代金の支払の協定ができたことは否認する。

既に支払協定成立の事実なき以上、右協定の存在を前提とする被告の(一)、(二)の抗弁はいずれも全く理由がない。なお、(一)の主張につき附云するに、仮り被告主張の如く植木、樹木の代金を支払う約定ができたとしても、被告の主張自体によつて明かなように土地の売買と植木、樹木の代金の支払とは条件関係に立つていないものであるし、さらに植木、樹木の価額につき協議がととのつていないからであるから、被告が勝手に定めた代金額につきその支払の要求に原告が応じなかつたからとて解除の前提たるに由なく、いずれにしても契約解除の主張は主張自体理由がない。

三、証拠(省略)

理由

原告が昭和二九年六月一〇日被告からその所有の別紙目録記載の土地、建物を、地上に存する植木、樹木を合せて買い受け、代金を土地については実測により坪当り三六〇〇円、建物については附属設備も含めて金二二〇万円とし、代金の支払方法を原告主張の如く定め、代金全額の支払と引換に売買土地、建物につき所有権移転登記を受ける旨約定したことは当時者間に争がない。

よつて、本件主要の争点である右坪当り三六〇〇円の土地代金が原告主張の如く地上の植木、樹木の代金を含む趣旨であつたか、被告主張の如く植木、樹木の代金は右土地代金の外とする趣旨であつたかについて判定するに、成立に争なき甲第一、二、六号証、証人サンチナ・グロツセ、アルフオンゾ・クレバコーレ(第一、二回)石山乃木(第一、二回)、テレザ・メルロ、平手はな(第一、二回)、恵美漸吉の各証言を綜合すれば、本件売買成立の経過、代金の取りきめ等については、次の如く認定される。

本件売買の交渉は当初は奥地(三〇五八、五九番地)約一〇〇〇坪を対象として始められたのであるが、一〇〇〇坪以上というのが原告の本来の希望であつたので、やがて広げられて本件土地全部に及んだのであり、その途中では、はじめ仲介に入つた訴外平位一郎に対する謝礼金がかさむのを恐れて同人を排除するため、原告側の関係者と被告との間に、右平位に対するてまえ、右奥地の部分についてのみ、被告の申出価額によつて取引が成立したような形を偽装したという派生的事件もあつたのであるが、後記被告本人の供述するところと異り、売買は結局本件土地全部につき一度に成立したのである。その売買値段の折衝においても、被告の最初の申出値段は全部の土地につき坪四〇〇〇円というのに対して、原告側の希望は坪三〇〇〇円であつて、その間曲折を見たのであり、被告側でさえ一時三〇〇〇円前後にまで折れる様子を示したこともあるのであるが、結局被告が本件土地には自ら手を入れた植木、樹木があることを理由に強気を示すに至つたので、原告としてはもともと土地買受の目的が幼稚園、修練場をここに拡張するにあつて、地上に木があり眺望もよい本件土地が右目的に好適であるところからこれを強く所望していたために、原告側はついに木もあるのだからということで、すなわち木は土地につけるという趣旨で、大いに譲歩して本件土地全部につき被告の当初の申出価額に近い坪三六〇〇円という値段まで認めることになり、ここに右の趣旨で右の値段で妥結するに至つたのであり、そして原告は元来地上建物は欲しなかったのであるが、本件土地入手の希望が強かったのと後日できるだけ問題が起らぬようにしたいとの考慮から、右建物も買い受けることにし、その値段もおおむね被告の申出に従つて二二〇万円ということにし、かくて本件土地全部を地上の木を含めて坪当り三六〇〇円、右建物を二二〇万円ということで買い受けたのである。その売買成立にあたり契約書として被告によつて立案作成された甲第一号証の仮覚書にも、最初は、第二項に「一、土地の譲渡価格は実坪当り平均単価を壱拾ドル($)とする」とし、第三項に「一、建物(建坪床面積約七拾坪)の評価は総額弐百弐拾萬円也とする」としてあつたのを、右の趣旨すなわち坪三六〇〇円の土地代金の中に地上の木の代金が入つていることを特に明かにし、以て、この点で後日問題が起ることを防ごうとする原告側の配慮からするその申入によつて、被告において右第三項の「建物(建坪床面積約七拾坪)の次に「及附帯施設」と挿入したのであり、右挿入の字句、場所は原告側において被告を信頼してこれに任せたのであり、そしてこれに基き右の如く被告において挿入をしたのであつて、挿入された字句場所は必ずしも適切ではないにしても、右挿入のねらいとするところは土地と共に地上の木も売買の対象であり、その代金は坪三六〇〇円の土地値段に入つていることを書面上明らかにするにあつたのであり、挿入後の右各条項による甲第一号証の意味せんとしたところを要約するに、土地及び地上物件一切(建物及び木)を売買の目的物とし、その売買代金は、土地については地上の木を含めて坪当り三六〇〇円、建物については二二〇万円とする、そしてこれを以て売買代金の全部とするというにあつたのである。そしてその後間もなく右甲第一号証を清書し、形式上正式に契約書と題して作成されたのが甲第二号証であり、これに双方調印したのであるが、その後において被告は地上の木は売買の目的から除かれていると一方的に主張するに至つた。

以上のように認定されるのであつて、証人御林清一が本件土地附近の地価、本件土地上の植木、樹木の状況等について述べるところも、また検証(第一、二回)の結果にあらわれている木を含めての本件土地の状態も叙上認定に支持を与えるものといえる。

被告本人は右認定に反し「当初もと栗林であつた奥地(三〇五八、五九番地)約一〇〇〇坪のみにつき、その相当値段にして他の希望者の指値でもあつた坪四〇〇〇円という被告の申出値段を被告が自発的に値引した坪三六〇〇円ということで一度原告との間に売買が成立したのであるが、被告はもともと土地売却の意思はなかつたのに、原告は右売買成立に続けてかねての希望どおり本件土地中右奥地を除いた前地の部分の売却をも強く要請し来つたのであるが、前地は奥地に比し地形上からも当然地価は高いし、それに建物や土地値段の二倍もする木があるので、資力上原告には無理と見えたので断つていたのであるが、ついに原告の申出に負けて、改めて奥地、前地の本件土地全部について地上物(建物及び木)を除外して土地だけを売ることになり、次いで地上物を含めて売ることを承諾したのであるが、原告側の、地上物件中建物についてだけでも値段を明かにしておいてくれとの要請によつて、建物値段は建築当時の見積書を基礎として昭和三一年五月まで減価償却して計算した結果二百八十何万円という価額が出たのを、原告側の求によつて二二〇万円に減額したのであり、乙第五号証がその時作つた計算書であつて、またその際作つた甲第一号証の仮覚書の建物の評価の項(第三項)に「及附帯施設」と挿入したその附帯施設は、建物の屋外に存する水槽タラ、ボイラー、物置、浄化装置等建物の附帯施設を意味するもので、甲第一号証は地上の木には触れておらず、そこに成立した契約の趣旨は被告主張の如きものであつた」旨、あたかも坪三六〇〇円は土地のみの値段としても安過ぎ、また附属施設を合せての建物値段二二〇万円も大負けであって、高価な木の代金は当然別計算とする趣旨であつた旨供述する。しかし被告本人の供述によれば、被告は本件売買の成立した昭和二九年六月一〇日に至るまで地上物件は勿論土地の一部である前地部分さえも売る意思は毛頭なく、同日の折衝の会合においても当初強く拒否していたのに、急転して妥結したものであるというのに(本件契約が成立し、甲第一号証が作成された場所が被告の自宅でないことは前掲諸証云によつて明らかである。)かような経過の下で建物の見積書が用意、持参されていて提出され、これに基いて計算がなされ、その計算額から数十万円の値引が即刻行なわれたというのは、どこかに不自然なものがあるのを否定できないし、また、被告本人は、前記の如く昭和三一年五月まで減価償却した旨供述するが、契約当時からすれば将来に属する右時期が、本件上いかなる意味をもつ時期であるかは明かでなく、右供述部分もにわかに肯けない。さらにまた被告本人は、前記の如く甲第一号証の建物評価の項に「及附帯施設」と挿入したのは、その供述する如き建物の附属施設を意味するものであるというけれども(そして条項の形式上そう見えることも否定できないにしても、)、土地、建物の売買において被告本人供述の如き建物の附属施設が建物に含まれるものであり、右売買の契約書において土地値段、建物値段を併記した場合に建物値段に被告本人供述の如き建物の附属施設の代金が含まれるものであることは(もとより特約その他特段の事情ある場合は別であるが、)、取引上の常識といつても過云ではないのに、被告本人供述の如き建物の附属施設につき、その帰属ないしその値段の点につき当事者間に取引上なんらか特に問題があつた形跡の窺うべきものなき本件において、ことさら事後に挿入までして取引上一般に常識とされている事項を記入したとするのもふにおちないことである。その他被告本人の供述を仔細に検討するに、前後必ずしも一貫していないし、納得できない部分もあって、前記諸証拠と対比してとうてい信用できず、証人平位一郎(第一、二回)の証云中前記認定とそごするかの如き部分も当裁判所の措信しないところであつて、他に前記認定を動かす資料は存しない。(なおここに附云するに、仮りに被告本人供述の如く、甲第一号証第三項に挿入された「及附帯施設」の語が建物の附属施設を意味する趣旨であつたとしても、甲第一号証自体植木、樹木の代金の点につき原告の有利にしんしやくさるべきものと考える。けだし、右の趣旨であつたとすれば、甲第一号証は木の代金にふれていないことになるだけであり、そして地上の植木、樹木を加えての土地及び地上に存する建物について売買がなされ、これについて契約書が作られ、その契約書(甲第一号証)には売買目的物件として土地と建物のみをかかげ、売買代金としては土地代金、建物代金のみ記載してあり、両者の合計額について、代金支払方法として明記してあるのに、植木、樹木については目的物としても、代金についてもなんの記載もない場合には、植木、樹木は土地に入つているものとして取引され、そしてその代金は土地代金に入つているものと見るのが普通だからである。)

以上要するに、本件売買契約においては、原告主張の如く坪当り三六〇〇円の土地代金中には地上の木の代金も含まれていたと判定される。よつて次に被告の(一)、(二)の抗弁について判断すべく、まず被告が(一)において主張する契約の成否について検討する。

被告本人はこの点につき、昭和三〇年三、四月頃被告が売買地上の木をいじつたところ原告から異議が出て、売つた、売らぬの紛議となつたため、双方の間ではつきりした取きめをすることになり、被告主張の日、原告代理人石山乃木と被告との間でその主張の如き契約ができた旨供述し、証人藤川八重子も右契約の成立を証云するけれども、これらは後記各証拠と対比して信用し難く、却つて、証人サンチナ・グロツセ、石山乃木(第一、二回)、平手はな(第一、二回)の各証云に本件売買契約の趣旨に関してさきに認定した事実を綜合すれば、右認定のような趣旨で売買ができたのに拘らず、被告がその供述の頃勝手に地上の木を移植したがために、原告側において被告主張の日に石山乃木を代理人として抗議させたところ、被告は原告側の主張を認める態度を示し、既に移植したものはそのままとすると共に、二、三尺から四尺位までの苗木約五、六十本についてこれを持ち出すことを認めてくれと申し出たので、石山は一おうこれを諒として原告側の諒解を得ることを約し、やがてその諒解がなされた事実はあるが(そして右諸証云並びに弁論の全趣旨によれば、原告側は従来も、また右諒解後においても、いわゆる権利の主張よりも、できるだけ紛争をさけるという実際的態度を以て被告に対処していたことが窺われるにしても、)、原告側がそれ以上譲歩して被告主張の如き契約をしたことなどなかつた事実が認められる。成立に争なき乙第一号証の「貴殿の御意見」の字句は、被告本人の供述する如く被告主張の契約を意味するものではなく、右認定の被告の申出(移植したものはそのままとし、さらに若干の小さい木を持ち出すことの申出)を指していることが証人石山乃木(第二回)の証云によつて認められ、また被告本人の供述によつて被告の日記であることが認められる乙第一三号証の一、二の記載も、その文云が被告本人の供述する如く被告主張の契約の成立を意味しているとはたやすく解し難いし、仮りにそうであるとするも同証の性質上前記諸証拠と対比すればにわかに真相を示すものと断じ難いから、これらの各証はここに採用の限りでなく、被告の提出、援用にかかるその他の証拠にして右認定を覆し、その主張の契約の成立を肯認せしめる適確な資料は存しない。

被告主張の契約の成立が是認されないこと右の如くであるとすれば、その存在を前提とする被告の(一)、(二)の抗弁は他の判断をなすまでもなく失当として排斥さるべきである。

よつて被告の(三)の抗弁について判断する。

原告が本件売買代金につき、その請求の原因(二)において主張する如く(もつとも請求の原因(一)の(2)の分割金の支払時期については争あるも、)支払をなし、昭和三〇年八月三一日までに請求の原因(一)の(1)ないし(3)の合計金一〇〇〇万円を被告に支払つたこと及び(イ)本件土地の実測坪数三〇六八坪四合八勺の坪当り三六〇〇円の割合による土地総代金から右金一〇〇〇万円を控除した土地残代金として金九六万一四九六円を昭和三一年二月二一日被告のため弁済供託し、また(ロ)本件建物代金として金二二〇万円を同年四月六日同様弁済供託したことは被告の認めるところである。

被告は右各供託は適法な弁済の提供なしに行われた旨抗争するが、証人サンチナ・グロツセ、アルフオンゾ・クレバコーレ(第一回)、石山乃木(第一回)、平手はな(第一回)、プラピザーノ・ジヨコンダの各証云によれば、原告はその主張の頃それぞれ右土地残代金及び建物代金を弁済のため被告に提供したが、被告においてその受預を拒絶したものであることが認められ、右認定を動かす証拠はない。もつとも、原告が坪当り三六〇〇円の割合による実坪三〇六八坪四合八勺の土地代金から支払ずみの合計一〇〇〇万円を控除した土地残代金なりとして弁済提供し、弁済供託した右金九六万一四九六円は右計算による真の土地残代金額に金八万五〇三二円不足すること算数上明白であるが、右差額は僅かであるし、右は単なる誤算の結果であつて右金額を固執するの意思に出たものでないことは弁論の全趣旨から明白であるから、右土地残代金の提供は有効のものというべく、従つてこれに次いでなされた供託は、供託額の限度において債務消滅の効力を生じたものというべく、また建物代金債務は前記供託によつて消滅したことになるのは勿論である。

然らば、原告は被告に対し本件売買代金中右誤算による金八万五〇三二円の未払あるものというべく、被告は原告に対し、原告から右未払金の支払を受けると引換に別紙目録記載の土地、建物につき所有権移転登記をなすべきであつて、原告の本訴請求は右の限度において認容すべきもこれを超える部分は失当として棄却すべきである。(なお、念のため附加するに別紙目録記載の本件売買土地中第九番目の「同所三〇五六番の二、畑二畝一六歩」は地目畑なるも現状農地でないことが検証(第二回)の結果によつて明かであり(検証調書添付の見取図参照)、その他の地目畑となつている土地については既にいわゆる宅地転用の許可がなされていること成立に争なき甲第一〇号証によつて明かである。)

よつて民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して注文の如く判決する。

別紙

物件目録

(一)東京都調布市深大寺町字宿三〇四九番

一、山林 九畝一二歩

同所三〇五〇番

一、山林 一六歩

同所三〇五一番

一、山林 一畝二歩

同所三〇五二番

一、山林 九畝歩

同所三〇五三番

一、畑 一畝二八歩

同所三〇五四番

一、山林 四畝四歩

同所三〇五五番

一、畑 九畝二六歩

同所三〇五六番

一、畑 一段二畝三歩

同所三〇五六番の二

一、畑 二畝一六歩

同所三〇五七番

一、山林 二畝三歩

同所三〇五八番

一、山林 一段四畝七歩

同所三〇五九番

一、畑 一段九畝九歩

(二)同所三〇四九番地所在

一、木造セメント瓦葺平家建居宅一棟

建坪 四八坪五合

同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建居宅一棟

建坪 一七坪二合五勺

同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建倉庫一棟

建坪 三坪

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